筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS) 教授/日本睡眠学会専門医/日本精神神経学会・専門医・指導医・精神保健指定医
睡眠障害の種類は不眠だけでなくありません。この疾患の種類は日中に過剰な過眠症状が起きる、寝ている間に呼吸停止を繰り返す睡眠呼吸障害など様々な疾患が含まれます。
放っておくと心臓疾患や脳梗塞など身体に深刻な影響も与えかねませんので、注意が必要です。今回は、睡眠障害が引き起こす問題、種類、原因や治療方法を含めて説明します。
これを機会に睡眠への認識を改めて、睡眠習慣や日常生活で快適な生活を送れるようにしましょう。
目次
睡眠障害とは生活リズムやストレスやその他の原因で引き起こされる睡眠に関する疾患の総称です。
この障害は不眠症以外にも、日中に猛烈な眠気が生じる過眠症や、睡眠リズムが乱れを戻すことができない「概日リズム障害」その他に睡眠呼吸障害などがあります。
日本国内においても、5人に1人が「夜中に目が覚める」「ぐっすり眠ることができない」といった不眠症や慢性的な睡眠不足に悩まされています。※1
睡眠障害は日常生活に支障を与え、仕事のパフォーマンスの低下や集中力が散漫になる、場合によっては交通事故を引き起こしてしまうなどに繋がります。
これらの症状が慢性的に発生する場合、身体および精神的な疾患を起こし、脳神経間の情報伝達機能の低下など日常に支障を与える症状が現れます。
これらの症状から目を背けず、専門医の指示に基づいた適切な治療もしくは生活習慣の改善を心がけるようにしましょう。
OEDCの調査によると日本人の平均睡眠時間は7時間22分、世界で最も睡眠時間を確保している南アフリカ人の1日辺りの平均睡眠時間は9時間13分でした。比べてみると日本人との差は1時間51分と約2時間近くもの差があります。※2
世界に比べて十分な睡眠がとれていない日本人は、同調査で睡眠の質を低下させている原因は「ストレス」と回答した方が最も多かったです。
特に「不安感」「憂鬱な気持ち」「緊張感」によるストレスは顕著で、健康問題、仕事、対人関係などに関する悩みが要因となり、眠りの質を下げている傾向が伺えます。
睡眠障害は不眠症、過眠症、概日リズム睡眠障害や、睡眠呼吸障害などがあります。
治療や予防を怠ると睡眠障害を原因に脳・心臓疾患、高血圧や糖尿病などの発症リスクも高まるので注意しましょう。
そのため体・精神など複数の要因が重なり発症する場合があると考えられています。※3
では、それぞれの睡眠障害について詳しく見ていきましょう。
不眠症は夜眠ることができない、朝に熟睡感を得られないなど、睡眠をとっているものの、満足のいく睡眠を日夜とることができず、普段の生活に支障が生じている状態です。
以下の症状が週に2回、1ヶ月以上も長引いている場合は、不眠症の疑いがあります。※4
この4つの症状が慢性的な悩みとなっているのであれば、不眠症と診断される可能性が高いです。
ただし、一時的に身体的な痛みや苦痛および日常のストレスが原因で、睡眠が妨げられている場合は不眠であり、不眠症に該当しません。
不眠症の種類は大きく2つに区別されます。1つは、悩みやイライラなど精神的な緊張や不安から発症する「一次性不眠症」。
もう1つが身体疾患や薬物の投与などが原因で現れる「二次性不眠症」と呼びます。
これらは精神的、身体的要因だけでなく環境の変化や生活習慣が要因となって発症しますので、寝付けない日々が続く場合やそのために昼間に眠気を生じる場合は、診察を受けましょう。
過眠症は十分な睡眠を確保しているにも関わらず、日中に耐え難い眠気に繰り返し襲われ、社会生活に支障が出ている状態です。
この疾患は十分な睡眠時間をとっても眠気がとれず、授業や仕事中に限らず、寝入ってしまいます。
日中数回にわたり誘因なしに強烈な眠気が起こり、そのまま眠ってしまう「ナルコレプシー」や一日中眠気が付き纏う「特発性過眠症」、稀な疾患ですが、眠気が3日から3週間程度継続する「反復性過眠症」があります。※5
これらは脳内で覚醒機能の低下で眠気が発生し、日常生活に支障を及ぼします。
もし昼間に強い眠気があったり、起きていることが困難であったりする場合は、過眠症を疑ってみましょう。
日常生活の妨げになるだけでなく、仕事上の不利益や居眠り運転による交通事故などの危険性が高まります。
上記のような症状が患っている可能性がある方は、睡眠クリニックを受診して、検査を受けるようにしてください。
概日リズム睡眠障害は体内時計のサイクルの乱れや体内の概日リズムを社会環境に同調させることが困難な症状です。
この症状は望ましいとされる時間に眠りにつくことができず、起床困難、日中の眠気や頭痛、倦怠感など日常生活に支障をきたします。
細かく見ると以下のように分類できるので、参考にしてください。※6
生活の乱れや時差、夜勤などにより人為的に引き起こされる不眠症状なども、概日リズム睡眠障害に分類されます。
睡眠サイクルが崩れてしまう生活を余儀なくされていて、何かしら身体に影響を及ぼしている状況があれば、睡眠クリニック等で診察してもらいましょう。
睡眠呼吸障害は睡眠中に呼吸が一時停止するなど、異常な呼吸障害を示す症状の総称です。
睡眠時の窒息感、起床時の頭痛、日中の激しい眠気などが主症状。
これらの症状の大多数は上気道が閉鎖し、呼吸が浅くなる閉塞性睡眠時無呼吸症候群が占めており、高血圧や脳梗塞の発症要因になります。※7
しかし、この睡眠中の呼吸停止の症状は本人が自覚していることが少ないため、周囲の方からの指摘が必要です。
特に肥満体型、首回りに脂肪がついている方、舌が大きい方などは、寝ている間に呼吸障害を起こしている可能性があるので、家族や恋人などに確認してもらいましょう。
睡眠障害を知らせるサインや症状は、不眠や過剰な眠気など日々の生活に関わるものと考えられがちですが、睡眠中に発生する異常な知覚行動や異常運動、睡眠・覚醒効果の問題などが一般的に該当します。
睡眠障害を知らせるサイン
普段の生活で猛烈な眠気を感じ不調の疑いがある、家族や知人から「睡眠時に呼吸が止まっている」などを指摘された場合、何かしらの疾患を抱えている可能性がありますので、専門医の診断を受けるようにしましょう。
不眠症の主な原因には心理的原因、身体的原因、精神医学的原因、薬物学的原因、生理学的原因の5つが挙げられます。※8
これらの症状は軽度なものであれば、日常生活や睡眠習慣を見直すだけで改善することができます。
しかし、重度になると医師による治療や薬物療法、認知行動療法などを必要に応じた処置を施す必要があるので、しっかりと診断してもらいましょう。
睡眠障害の対策や治療をする上で、まず大事なことは睡眠への認識を改めて睡眠習慣を整えていることです。
もちろん場合によっては、睡眠薬を導入した薬物療養、不眠への考え方と行動を変えていく認知行動療法など、疾患に合わせた対応が行われます。
その他に、肥満体型の改善や暴飲暴食、禁煙など日常生活の改善、無呼吸症候群には睡眠時にCPAPを装着し、気道にしっかりと空気を届けられるようにするなど様々。
もし睡眠が原因で1ヶ月以上不調が続いている場合は、専門医に訪れ受診することをおすすめします。
睡眠障害の種類や対策、何が原因でそれらの疾患を抱えているのかご理解いただけたでしょうか。
不眠、過眠、睡眠中の呼吸障害がなぜ起きているのかを知ることができましたね。
日中に強烈な眠気、夜なかなか寝付けない、熟睡できないといった症状がある方は、まずは日常の生活習慣を見直す必要があるかもしれません。
症状が継続的に続くのであれば専門機関もしくはかかりつけ医に相談してください。
最後に今回の記事をまとめておきましょう。
良質な睡眠を確保するためには正しい知見や適切な対応が求められますので、不調が続く、改善兆候が見られない場合は、医師に相談するようにしてくださいね。
【参考文献】
※1 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト
※2 日本人の「睡眠」に警鐘『スタンフォード式 最高の睡眠』西野教授
※3 みんなのメンタルヘルス
※4 不眠症とは
※5 過眠症とは
※6 概日リズム睡眠障害とは
※7 睡眠呼吸障害とは
※8 代表的な不眠の症状
ライター = 大古琢登
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